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「ありがとうございます」花奏
花奏はいつの間にか解れていた緊張の糸をすっかりなくして穏やかな表情でそう言った。
伊月はそんな花奏の様子に安心したような、不思議な嬉しさを感じた。
それからようやく2人は展示フロアに入り、様々な作品の絵画をゆっくりと見てまわっていると、いつしかお互いにすっかり気を許していた。
しばらく歩きながら見ていると、ふと花奏がある作品の前で立ち止まった。
「どうした?」伊月
花奏の様子に気がついた伊月は先に行っていたのを戻ってきてそう聞くと、花奏はその絵を見ながら伊月に言った。
「この絵に描かれている花、私の大好きな花なんです…」花奏
「…アネモネか」伊月
伊月は視線を花奏からその絵に移すとそう静かに呟いた。
花奏と伊月が見ていたその絵は、辺りに咲き誇るアネモネが夕暮れの光に照らされて、どこか切なげで何とも言えない美しさを切り取った油絵だった。
そして花奏が呟くように隣にいる伊月に言った。
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