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「そんな…先生は悪くありません」花奏
目の前で謝る姿に花奏はなぜか一瞬だけ胸が苦しくなったのを感じた。
すると伊月が少し考えてから言った。
「それじゃあ、もうそんな顔をするな」伊月
「えっ?」花奏
「君がそんな顔をするたびに僕は、自分の勝手な思い込みのせいで君を困らせてしまったと僕自身を責めてしまう…」伊月
「そんな…」花奏
「だから、本当に君が僕を悪くないと言うのなら、もうそんな顔をするな、謝ったりもするな…僕は君が悪い事をしたと思っていないのだからーー」伊月
伊月は優しく、真剣な表情で花奏にそう言った。
花奏はその言葉に思わず涙が出そうになった。
そして出そうになる涙をぐっと堪えて花奏は静かに頷いて短く言った。
「はい…」花奏
小さな誤解も解けた2人の距離は前よりもほんの少しだけ近づいて、再び笑い合ったーー。
そしてその姿を、まるでこの先起こる未来を何か暗示するようにアネモネの花が見つめていた。
だけど、この時はまだ気づいていなかったーーー
「許さない…、私からまた伊月くんを奪おうとするなんて…一条花…いえ、新条花奏さん…殺してやる」京子
京子は片方の空いている手をぎゅっと強く握りしめてそう静かに呟いた。
そして誰も知らなかった…2人の笑い合う姿を遠くから哀しみと殺意を含んだ目で見つめる京子の存在と、この嫉妬に狂った恐ろしい決意の刃が花奏に振りかざされてしまうことを…この時は、気づかなかったーーー
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