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展望台
自分の車を走らせ、住所をカーナビに入力してそれが指し示すとおりに進んで行く。
初めは割にスピードを出すことが出来ていたが、どんどんと道幅は細くなり、山に入ると、視界は伸びて放置された枝で悪くなって行くし、所々ガードレールが壊れて役目を果たしていなかった。
もしかしたら僕はここで崖から落ちて、死ぬかもしれないなと一人でいるとどんどん不安になって行った。
僕の隣には励ましてくれる妻や友人はいないのだった。
着いてみると、山頂に立っていた僕の当分の住まいは、ひとつだけぽつんと立っていた。
周りには誰かがいる痕跡も見当たらず、雑草が我先にとその手を腰ほどまでに伸ばしている。
道だけは舗装されているために、植物で覆われてはいなかったけれど、それを除けば廃屋と言っても差支えはなかっただろう。
「本当にここに住むことになるのか...」周りはシンとしていて、声がシンと響き渡る。
ぼうっと立っていてもしょうがないので、荷物をトランクから取り出して運び入れて行く。といっても大体の家具などはすでに業者が運び入れていたから、荷物というのはほぼ衣類や趣味の小道具だけだった。
家の間取りは一階にバスルームとトイレ。キッチンとリビングが一部屋があり、二階に和室一部屋と洋室が二部屋だった。
これは前々から知っていたので特に発見はない。その部屋の中から和室を選んで荷物を片付ける。
荷物を片付け終わった時には既に、時刻は夜の八時を回っていた。
明日から周りの地理を把握するために、今日は少し無理して仕事終わりにこちらへ向かっていたのだ。
運転しているときは気づかなかったが、思ったよりもお腹の減りを感じて、一度近くのコンビニまで車を走らせて弁当とビール瓶を数本購入した。
そのコンビニに向かうのに片道30分ほどもかかってしまった。こうするととてつもない田舎に来てしまったことを実感するようだ。
帰り道で、ふと車を止めて外に出てみる。
その場所だけは木のちょうど切れ目となっていて、景色が一望できる。椅子や看板などが置いてあることから、ちょっとした展望台なのだろうか。
眼下には小さな町が光を放っていた。橙と黄色の光だ。地平線を境にして上には星空が光っている。
「綺麗だ...」誰に言うでもなくつぶやく。
すると、椅子の近くに設置してある丸太で出来た柵の近くから、声が聞こえた。
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