見えない、動けない

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見えない、動けない

 私の知り合いAは、一人旅が趣味である。しかし一人旅といってもそこらの人が言う一人旅とは訳が違う。彼女は主に、ぼろぼろの廃墟や廃れきったいなか町を巡るのが趣味の廃墟マニアなのだ。私も前に何度か同行したことがあったが、何がそんなに面白いのか、いまいち理解できなかった。  そんなAが、ある時こんな話を興奮気味に私にしてきた。 「出ちゃった。幽霊。始めて会っちゃった……」  久しぶりに再会し、何を言い出すかと思いきや、旅先の旅館で幽霊に話し掛けられたと言うのだ。  A曰く、40年代頃から残されている古い廃墟に写真を撮りに行ったのだそうだ。  そしてその日の夜、彼女が旅館の部屋で寝ていると、突然何かを引き摺るような音と人の気配を感じたという。  ドアの鍵を閉め忘れて誰かが勝手に入ってきたのかと思い、びっくりして身体を起こそうとするが、身体のどの部分もピクリとも動かない。いわゆる金縛りというやつだ。  大抵の場合、金縛り経験者は身体は動かせなくても瞼の開け閉めだけはできるということが多いのだが、Aの場合瞼すら動かせなかった。固定された真っ暗な空間で、ひたすらに正体不明の物音と何者かの気配を感じ続けたというのである。
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