お前は誰だ?

2/2
前へ
/24ページ
次へ
 あろうことか、Bは頭から窓ガラスに突っ込んだ。ガラスは粉々に砕け散り、Bはそのまま地面に落下した。パーン! という、乾いた音が辺りにこだまする。  俺は急いで駆け寄って、窓から下を覗き込んだ。Bは血を流して死んでいた。 「かわいそう」  背後から誰かの声がした。  振り向くと、図書館にいた学生全員が俺の後ろに立っていた。全部で二十人くらいはいたと思う。 「かわいそう。かわいそう」  学生達は俺を取り囲んで口々にそう言った。 「かわいそう。かわいそう」  ただそう言いながらじりじりと俺の方に寄ってきた。 「なんだおまえら! それ以上来るな!」  俺は流石に恐ろしくなって、必死で叫んだ。すると、一人の女子学生が物凄い力で俺の襟を掴み上げた。 「かわいそう」  彼女はそう呟くと、どこにそんな力があるのかわからないが、俺の身体を窓の外に勢い良く放り投げた。  俺は意識がはっきりした状態を保ったまま宙に投げ出され、硬いコンクリートの上に叩きつけられた。明晰夢なのだから何も素直に落下する必要もなかったのだが、初めてのことだったこともありうまくコントロールすることができなかった。だが、そのおかげで目が覚めた。  俺は念のため手のひらを確認した。親指の付け根にはちゃんと★印があった。  しかしそれからというもの、俺は明晰夢を見ることはなくなってしまった。それどころか、夢の内容すらよく思い出せなくなった。まるで何も見なかったかのように。  その後現実世界のBとも話したが、Bは俺が明晰夢を見たその日から、全く夢を見なくなってしまったそうだ。  俺はあの時、夢の中のBに何をしてしまったのだろう。 
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加