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一学期
「…昆虫食ってできますかね?」
私は思い立ったように軽く、しかし、真剣に部長に言った。
「ああ、別にいいよ。面白そうだし」
私の突拍子のない提案に、部長は少し笑みを浮かべて答えてくれた。
今日は夏休み前最後の部活動だ。
飼育している昆虫たちの管理を終え、一時間ほど校内で昆虫採集をしたのち、みな部室内で夏休みの予定について話し合っていた。
「去年は400枚近くラミネート作ったけど、時間がかなり押しちゃったじゃない?」
「だから今年は夏休み中に終わらせたいんだよね。あとレジンも」
「それと、3年は課研もあるからなるべく1、2年に来てもらうことになる」
先輩たちが淡々と話し続ける。
「ところでハマちゃんが言った昆虫食だけど、どういう風にやりたいとかある?」
「今考えてる案としては実際に食べて、味とか食感とかをレビューして展示してみたいと思ってるんですけど」
部長からの質問に少し間をおいてから答えた。
「なるほど。何を食べるとか決まってる?」
「そうですね…今のところ考えてないですけど、前にネットで調べたら新大久保にある『アジアスーパーストア』ってところで食用の昆虫が買えるらしいのでそこに行って決めようかと思ってます」
普通の人が聞いたらドン引きするような会話だが部長と私はいたって真面目である。
「よし分かった。じゃあハマちゃんと一緒にやりたいっていう人いる?」
先輩がそう聞くと意外なことに部員の3分の1が手を挙げた。
「オッケー。それじゃあ昆虫食はこのメンバーで進めていって。今日はこれで解散」
先輩が話し終えると完全下校10分前の予鈴が鳴った。
「みんな急いで。早く帰ろう」
部員たちが慌ただしく帰る準備を始める。
最後の一人が部室のカーテンを閉じ、扉にカギをかけて解散した。
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