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彼によると、“知識の城”でベルゼブブの影による急襲を受け、一茶とアイザックの治療のために、やむなく二人を取り残してきたらしい。
「ここを片付ければすぐに戻る」
ウタマルの視線がガラシャと寿限無に向けられた。
“ここを片付ければ”ーーと彼は簡単に言ったが、私は推し量ることができなかった。
相手は、ランカー。
剣鬼族の二人と、寿限無との間に、どれほどの力の差があるのか。そもそも、どちらが強いのか。
「ふむ。卑劣と鬼畜の名で通る老害をこの手で斬れるとは、悪いことばかりでもないかもしれんな、ガラシャ」
ガラシャは答えない。
ただ一点を、ただ目の前の寿限無だけを見つめている。
私が二人の治療をしている間も、二人に動きは無かった。睨み合ったまま動こうとしない。
どちらも先手を打つことを避けたいのか。
「ーー!!」
いや、動く。
先に動き出したのは、ガラシャだった。
次の瞬間には、その姿を見失っていた。
剣技において最高レベルの実力を有する種族ーー剣鬼族。その中において、最強の名を欲しいままにし、種族を冠する二つ名、“剣鬼”と称されるほどの剣豪。
その実力は、ユートピア、いや、Aちゃんねる全土においてもトップクラスであることは疑う余地も無い。
「なんて、速さ」
私が次にガラシャの姿を捉えたときには、寿限無の両腕が斬り飛ばされていた。
卑劣な戦法を使ったとは言え、本気を出したマリッサを完封した相手だ。それがこれほどまで、手も足も出ないとは……。
「ふぁ……これだから老いぼれ相手は好かんのだ。毛も生えきっとらん小童の相手に限る……!! おぇ、おろろろろ」
寿限無は悪態をつくと、口から大量の魔物を吐き出す。
魔物を生み出す量に上限があるのか分からないけど、さっきまでと比べると破格の数だ。見境が無い。
「ガラシャ、手伝うか?」
「無用」
しかし、ガラシャにとって、その数は問題ではなかった。
これもまた、一瞬。
太刀筋のほとんどが見えないままに、吐き出された魔物達が瞬殺されていく。
「奴がああ言ってるなら任せていい。マリッサのところまで護衛する」
私は対向で動かなくなったマリッサに視線を向けた。彼女もそう柔ではないはずだ。きっと大丈夫。
先に走り出したウタマルの背中に続くように、私も駆け出した。
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