レイトショー

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「俺は先輩と別のサービスの日に行きたいっすね。」 「いつだよ映画の日?」 俺は先輩のほうに向きなおると、その頬に手をあてた。 頬はとても冷たく、俺の指の体温を奪う。 先輩は一瞬びくっと身体を震わせ、俺をどこか恐ろし気な表情で見ていた。 「夫婦割引。男同士でもいけるんですかね?」 先輩はすっと目を伏せると、ため息をついた。 眼鏡のせいでわかりにくいけど、案外まつげが長いんだよなこの人。 そんなことを思っていると先輩が勢いよく顔を上げた。 その顔は寒さのせい、じゃないな、俺のせいで赤くなっていた。 「お前それどういう意味かわかって……」 口をパクパクさせながら言い募る先輩が可愛くて、 先輩の前髪をかき分けそのオデコにキスをする。 軽く触れるだけのものだったが、先輩は瞬時に反応し 俺から離れるように勢いよく仰け反った。 「!!!??おまっ……」 先輩はバランスを崩し背中から地面に落下する。 いてえ、と先輩が呻き声をあげるのを、俺は上からのぞき込んだ。 先輩は足だけ手すりに乗った不安定な状態だった。 しかしなぜかすぐには立ち上がらず、腕で顔を隠している。 「物事には順序ってもんがあんだろ……いきなりキ、 キスとかそんなんさ……。」 「映画とかのラブロマンスはそういうもんですよ。逆に口にしなかっただけ俺の理性を褒めてほしいですね。」 先輩は指の隙間から俺をにらむと、本日二回目のため息をついた。 「しかも夫婦割引は50歳からだぞ。」 「それくらいまで、いやそれ以上に一緒にいようってことっすよ。」 プロポーズかよ、と先輩が小さく零す。 顔だけじゃなくて首まで赤くなっていく先輩を見ていると、 この人がやっぱり好きだな、と改めて思う。 「……いつか男同士でもできるんじゃねえ?時代はポリティカルコレクトネスよ。」 「期待しましょう。」 笑いながら俺は先輩に手を伸ばす。 先輩はやれやれと、俺の手を掴んだ。
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