知らぬは本人ばかりなり

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だが男が懸念したように少女は霊感、見鬼共に強すぎる為人が多く霊等も集まりやすい場は苦手であった。 少女の名を輝夜。今時珍しくなったストレートの黒髪を腰まで伸ばした中々の美少女である。 そして対する男の名を月詠。男に至っては人の子ではなく千年以上の時を生きる天狐である。 銀の髪に着物を纏った男は容姿も人間離れした美貌であるが少女が側に居ればどこか好々爺とした雰囲気を纏う不思議な男だ。 「まぁわしが居れば側まで接近してくる事は無いじゃろうな。弱い霊なら勝手に払われるじゃろ」 「お祭り行ってみたいー!」 「仕方ない、連れてってやろ。はしゃいで逸れるようならしまいじゃからな?」 情が移り庇護をしている少女故男は彼女に甘い。結果1つの約束と引き換えに望んだ答えを貰った。 見た目こそそぐわないがその様は孫と祖父の会話さながらである。 「お狐様見て見てー。新しい浴衣!似合う?」 当日彼女は大きなキャリーケースを引いて庵を訪れすぐさま1室を占拠した。 しばらく後出て来た彼女は紫の布地に大小様々な花火の刺繍を施した浴衣姿であった。 なんの事はない男に一番に見せたく庵で着替えただけである。 「また手間の掛かる柄を拵えたの。よう似合っておる。髪はそのまま降ろしておくのか?」 「んーん、簪も持って来たよー。新作!」     
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