知らぬは本人ばかりなり

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簪には摘みで多くの花びらを模した夏らしい色合いの大輪の花が付いている。それを受け取り手慣れたように月詠が結い上げてやると嬉しそうに笑った。 「おおー、やっぱり大きいお祭りは人が多いねー。癸様平気?」 「吾の事よりしかと前を見ぃや。転ぶえ」 「はぁい。でも癸様も来てくれて嬉しい」 あの後男だけでは心配だと一人の女が告げ同行を申し出た。少女よりも尚長い黒髪を背に垂らし婀娜っぽく着物を着崩した女の名は癸-みずのと-水を司る蛇神の一種であり輝夜に救われた一人であった。 「あ、見て見て!金魚すくいあるー。ほんとにいっぱい金魚入ってるんだねー」 「嬢ちゃん、1匹でも掬えたらおまけで5匹あげるよ。やってくかい?」 「んーん、猫も鳥も居るから食べられちゃいそうだし良いー」 とはいえ彼女が言う猫も鳥も妖怪であるが。 その後も月詠と癸の手を引き屋台を冷やかし、時々食べ物を買いつつ元気に広い会場内を見て廻った。 少女の読み通り強い気を持つ月詠の側へ来てしまった霊はそれだけで姿を消し、少女が害される事は無かったが妖力のそこそこあるアヤカシは月詠や癸の気配に怯えつつも輝夜の霊力の高さに気付いてほしいと遠巻きに見ているモノも多く居た。化けれるモノは人に混じり、化ける力のないモノは人に気付かれぬよう付いてくる。見える物からすれば一種異様な場となっていた。     
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