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しっかし臭さが消えないこの部屋。
鼻栓全然効いてないんじゃないかなこれ。
「けど、過去の男の靴下まで出す必要ないだろ。ヤツの物かどうか、全然わかんねくなったんじゃね?これ」
確かに。
これじゃまるで臭い男大好き武勇伝を語る女々しいクサクサ女でしかない。
一体アタシ、何がしたかったんだろう…。
「まぁ…これだけ収集できてる程、アタシはその都度その都度、ちゃんと彼を愛してましたーっていう証拠見せだったのか、はたまた逃亡したヤツの汚れと臭いは、今までにないほどの酸っぱさだったんだ!とか、何か違いを俺に示したくて他のも出してきたのかも知んねえけどさ…」
「もう早くどけちゃおう、これ」
「おい、俺の美談フォロー全然聞いてなかったのかよ?」
ただただ臭いものは臭い。それだけだ。
「せっかく来てくれたのにこんなに臭い夜になっちゃって。ごめんなさい」
「どうした?ここまで来てあんた諦めんのか?」
自分に呆れるように死んだ魚のような目で無数の靴下を眺めた。
...その時。
「こ、これは…!!」
アタシが体を半分起こしたせいで折り重なってしまった多くの靴下の中、一つだけにべっちょり口紅が付いていた。
「あ…」
大好きメイクブランド『SHISENDOUルージュ新色・通称:焼きりんご』でキスした口紅の跡だ。
「これだわ…間違いない。彼のだ。あら、アタシったら恥ずかしげもなくキスするなんて…イヤーン」
両の人差し指と親指で他のを避けながらそのチュー靴下を摘み上げた。
「く、臭い。最っ高に臭い。けど、やっぱり…終わったんだ、この恋も…」
何故だかホロリと一筋、涙が零れた。
最近で一番愛おしい男の臭いがそこにあった。
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