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洗い髪を風に当てながら、文を書くため墨を擦る。
さて、なんて書いたらいいだろう。
言いたいことは色々あるけど、不人情を責めたり、未練がましいのは駄目。
あの人は、面倒な女が嫌いなのさ。
あたしはあの人にとって、いつでも戻ってこられる塒だった。。
どんなに他の女の元を渡り歩いても、最後に戻って来られるのは、ここしかなかった。
けれど――
もう、塒は要らなくなったのだ。
だから、最後の思い出に今宵一晩限り、しっぽりと楽しみたいとしたためた。
来るかしら?
ええ、きっと来る。
浮ついていていい加減だけれど、優しくて気の弱い人だもの。こうして呼び出されれば、ふらふら来ずにはいられない。そういう風に、文を書いた。
あの人にとってあたしは、他の女みたいに泣いたり騒いだりしない、都合のいい女。
古狐の本当の手管なんか、知りやしないのさ。
それから、またもう一通文をしたためておようは、近所の子どもに文使いを頼んだ。
来るかしら?
ええ、きっと来る。
来なければ、それでお終いさ。
このくらいのことが出来ないで、あの人の女なんてつとまりゃしない。
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