化ける

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 さあ、これからが本番よ。  よく溶いた白粉を顔に少しつけたら、指先で静かに回しながらむらなくのばしていくの。  両眉の上と間、両の頬、鼻の上から鼻の両脇、口の上下左右、耳のうしろ、耳、首筋、咽――この順番で一ヶ所ずつ、同じように少しずつ白粉をつけながら、指先でそろそろと回して、よくのばしていくのよ。  白粉はね、塗ってお終いじゃないの。  眉刷毛に軽く水を付けて、丁寧に何度も刷くことで、白粉はようくのびて光沢(つや)が出てくるの。眉刷毛の使い方が少ないと、白粉が浮いてしまうわ。  白粉がよくのびたら、少し風に当てて乾かした後、紙を顔に当てて、その上から軽く水を付けた眉刷毛で、また何度も刷いて滑らかに落ち着かせるのよ。  それから今度は粉白粉よ。  また別の乾いた眉刷毛につけて、むらなく顔に刷いていくの。江戸の化粧は薄化粧が良いのだから付け過ぎは駄目よ、程良くね。  たとい鼻が低くても、眉と目の間から鼻の頭にかけて他より少し白粉を濃く塗って、うまく両脇へぼかすと、形良く鼻筋が通って見えるようになるものよ。  髪の生え際なんかも、いかにも化粧したと見えないように上手にぼかして、柔らかく見えるように白粉を使うのよ。そうすれば、しみやそばかすを白粉で隠していても、薄化粧のように見えるわ。
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