化ける

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 次は、紅ね。  女は、赤いものを付けるとそれだけで心が浮き立つわ。  胸を病むと綺麗になれるなんて言うのは、大昔の話よ。  今どきは、労咳病みみたいな青白い顔をしていちゃ、男は誰も見向きもしない。  顔の色を良く見せるためには、薄く溶いた紅を、両の頬と目の上に乗せていくの。  付けすぎては駄目よ。とんだ田舎娘みたいに野暮ったくなってしまうから。  付けたらすぐに、粉白粉の眉刷毛でたたいて、桜色にぼかすのよ。  左右の色が違わないように気を付けて。  目尻が下がって見えるのは、白粉の後、湿った手拭いで目尻から目の上の方をそっと拭って、その後に、紅を薄く肌の色みたいにほんのりと塗るの。そして、下瞼には白粉を塗ると、上がって見えるわ。  口は、小さく見えるように唇の内のほうまで白粉を少しかけて塗っておいて、一回り内側に紅を差すのよ。上唇は薄く、下唇は濃く……これは秘伝なんだけど、下唇はね、下地に墨をまず塗って、その上へ紅を付けると、何度も重ね塗りしたみたいに濃く見えて、虹のように青く光るのよ。  さあ、出来た。  完璧ね。  あの人の好みは、誰よりもあたしが一番知っているんだから。
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