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「兄貴は俺と一回り以上違うから、兄貴に悪いことも教えてもらったし、親父は厳しくて決して贅沢をするような人間じゃなかった。大学もほとんど援助はなかったのは沙耶もしってるだろ?」
そう、あの頃の優悟君はどこかの御曹司なんて想像もできないぐらい、バイトもしていたし節約もしていた。
「だから、本当は周りが思うほど俺は特別な生活をしていなかったし、金も持ってなかった。でもこの家のせいでそうは思われなかったけどな」
少し苦笑して優悟君は言うと、私の顔を見た。
「だから、沙耶がただの俺を好きになってくれて、普通の生活をすることが本当に幸せで、楽しかった。あの頃言った普通の生活をしたいって言った言葉に嘘はない」
「うん」
その言葉は信用できる。あの頃は本当に楽しかったし、幸せだった。微笑んだ私に、優悟君も優しく微笑んでくれた。
「あの時以上に幸せになろうな」
その言葉が、優しく私の心に浸透していった。
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