15831人が本棚に入れています
本棚に追加
/304ページ
「だから、なるべく沙耶が望むような普通の生活をするようにするから」
自分にも言い聞かすように言った優悟君を私は抱きしめた。
「ねえ、そんなにどうするとか決めなくていいんじゃない?」
「え?」
私の言葉に、優悟君は驚いたように私を見た。
「私が昔、普通の幸せがいいって話をしたのは、あの時がそういう幸せだったから。そしてなにより優悟君がいたからだよ。私が幸せなのはどんな時でも優悟君のそばにいること」
少し照れながら言った私を、ぽかんとした表情で優悟君はみていた。
「俺がもしも、お金がまったくなくなっても?」
何をくだらないことを聞くのだろう?
「当たり前でしょ」
あきれたように言った私に、優悟君は大きく息を吐いた。
なにを言っているかわからない私に対し、優悟君は泣きそうな表情を見せる。
「あー、やっぱり俺には沙耶しかいない。そう言ってくれる沙耶が俺のすべてだよ。俺はこれから沙耶との幸せのために生きるから」
ぎゅうと抱きしめられて、当たり前のことを当たり前ではない生活をしてきたのだろう、優悟君を私も出来る限り寄り添っていきたい、そんな事を思った。
料理人さんの作ってくれた前菜も、サンドイッチも本当においしかった。
そしてきっとすごく高いワインも美味しくいただき、私は初めての彼の家の訪問をなんとか終えた。
最初のコメントを投稿しよう!