甘い罠を何度でも

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久しぶりに降り立った駅で、私は小さく息を吐いて周りを見渡した。 東京とは違い、海沿いのこの街に来るのは数年ぶりだ。 別に両親と仲が悪いわけでも、嫌な思い出があるわけでもないが、この街では若く結婚する人も多く、26歳になった今、友人たちは子供がいる子も増えた。 そのせいか、なかなか会う機会もなかった。 「懐かしいな……」 昔よく嫌なことがあると漁港の堤防に座り海を見ていた事を思い出す。 「沙耶か?」 そんな声で振り返ると、驚いたような男の人がいた。 誰? 「沙耶だろー?俺だよ!俺!大知!」 「だい…ち?え!だいちゃん?」 懐かしい、中学時代のボウズ頭が思い浮かぶ。 小さな町の酒屋の息子で、幼稚園から一緒のいわゆる幼なじみだ。
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