文子への手紙

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次々と人が出入りする洋館の前で、私はこの女性解放運動の結社が主催するパーティーに招待された理由を考えていました。ジェンダーを研究対象とする上で、女性解放運動のフェミニストに取材した事もありましたが、このパーティーを主催する結社には誰も知り合いはいませんでしたし、今までに関係を持った記憶もありませんでした。 いつもならこのようなお誘いは断るのですが、私と同じく招待を受けていた岩澤晴彦からの強引な説得の下、参加することにしたのでした。岩澤晴彦は貴女も知っての通り私と同じく学者であり、私の無二の友人でもありました。寡黙で人付き合いをあまり好む性格ではない彼が私をパーティーに誘うなど初めてのことで、私が参加するつもりがないことを言ってもしつこく食い下がってくるのです。「長居しなくてもいいから、結社の代表の文子さんと是非会ってほしい。いや、君は会うべきだ」 彼の今までに見たことのない剣幕に気圧され、私は結局折れました。その時から、岩澤にここまで言わせる貴女に尋常ではない何かを、まだ会わないままに感じ取っていました。
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