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経験の無かった躰は彼によって無理やりに開かれた。
わたしはこの時、男の人の〝豹変〟というものを初めて見ることとなった。
貫かれた膣の痛みに耐えるわたしは彼の裸の背中にわずかに爪を立て、頬を伝った涙と共にほんの少しだけ滲んだ後悔を胸に刻み込んだ。
こんな事になってもわたしが彼の傍にいたかったのは、彼の目を見てきたから。
出会ったあの日から、彼の悲しみを湛えたような寂しい目を見てきたから。
初めて会った時から彼は独りだった。
母が、弟だった彼とどうして生き別れたのかは知らない。
けれど、母も彼も親は無く、身寄りのない人だった。
ううん、母にはわたしがいたけれど、彼は本当に、正真正銘、独りだった。
彼を救えるのはわたししかいない、と思ったのだ。
そう信じていたのだ。
それは今でも変わらない。だからわたしは彼に抱かれ続ける。
彼の、わたしを抱く腕、躰をまさぐる指、その全てに欠片も愛を感じられなくても。
寂しい目をしたこの人を独りにしたくはないから。
感情のないセックス。
彼に抱かれている間、自らの心に「これは儀式よ」と言い聞かせる。
これで彼の傍にいられるのなら、わたしは自分の心を停止する。
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