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ラジオのパーソナリティーの滑舌ほど安心なものはない
式典ほど面倒なものはない。
朝の情報番組では大人たちがわざとらしい笑顔で、今月から新学期ですね、と無関係な話題に花を咲かせている。秋らしい服装の女性アナウンサーは無理矢理な高い声で男性キャスターの思い出話に相槌を打ち、君はどうだったの、と漠然とした質問を投下されては困っている。
瀬良拓馬はそれを横目で眺めると、左上に表示された時間に急かされてテレビの電源を切った。
今日は九月一日。境川学園の生徒が期待と不安に胸を膨らませる日である。
「いってきます」
拓馬の声は静かな部屋に広がって溶けた。
境川学園は小中高一貫の私立学校だ。この学園の生徒は例外なく学生寮に入り、規則正しい生活を送ることが求められる。
それが窮屈だと言う生徒もいるが、拓馬は特に不満を抱いていない。衣食住が保障され、安全で快適な一人暮らしを満喫することができるのだから。
唯一、気がかりなことがあるとすれば故郷のことだった。電車に一時間も揺られれば着くというのに何を心配するのかと笑う者もいるが、彼にとっては大きな悩みの種となっている。学園に通う生徒の中には飛行船で丸二日かかるところから来た者もいるから、拓馬の気持ちを理解できない者も多い。生徒だけでなく、教員でさえも。
拓馬はすれ違う教員やあいさつ運動の生徒たちに軽い会釈をしながら、高等部の白く荘厳な校舎へ足を踏み入れた。
溢れかえる紺色ブレザーに目を回しつつ、彼はキツめに締めてきた緑色のネクタイを緩めた。他の生徒も教員たちの身だしなみチェックロードを抜けたと見たか、それぞれ思い思いの色のネクタイやリボンを緩めている。中にはシャツのボタンまで外す者もいた。
夏休み明けで久し振りに顔を合わせた生徒同士があちらこちらで固まっている。昇降口、渡り廊下、トイレ、果ては教室の出入口で、彼ら彼女らは大音量で互いの近況を報告しては手を叩いて笑っている。
「二年生の初日から憂鬱そうな顔をしていますね、瀬良くん」
拓馬はその丁寧な話し方をする人物を一人しか知らない。ちらと横目で確認すれば、そこには思い描いた通りの人物がこちらを見上げている。
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