陰鬱な街

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だとしたら大変な事だ。 いくらお金があるとはいえ、町中を敵に回すとは、我ながら愚行だと思う。 これからは行動を改めなければいけない。 しかし今更、急いでも仕方ない事だろう。 徐々に距離を縮めていくしかないと考えていた所で、強い空腹感が襲ってきた。 朝食を抜いた為だ。 そこで、地域との親睦を図る事と兼ねるつもりで、肉まん売りのおばちゃんに話しかけた。 「三つ下さい。お腹が空いてしまって」 すると、おばちゃんは苦笑いとため息で答えた。 やはり、相当嫌われているらしい。 でも、これからは礼儀正しくすると決めた。 「あの、いくらですか? 値段が出てませんね」 私が聞くとおばちゃんは再びため息をついた後、こう言った。 「まだそんな事言ってるのかい」 「そんな事・・・・・・?」 意味が分からず、私はきょとんとしてしまった。 「あぁ、今日もかい。仕方ないね・・・・・・」 するとおばちゃんは、肉まんを出す代わりに、後ろを向いて、ゴチャゴチャと置いてある荷物の中から何やら探し出し、小さな紙袋を一つ、私に差し出した。 「これで良ければあげるけどね。でも袋は返してね」 「え? どういう事ですか?」 「いいからいいから。かばんを 開けなさい」 私が言われるままにかばんをあけると、中に詰まっている札束が丸見えになった。 しかしおばちゃんはかまわず、その上に袋の中身をぶちまけた。 中からは、丸くて茶色い塊がコロコロと沢山落ちてきた。 「な、何なんですか!? これは!」 「何って、湿気ちまったドッグフードだよ」 「えぇ!?」 「今のあんたには分からないだろうけど、必要になるだろうからね・・・・・・ ありがたく思いなよ。うちだって大変なんだから」 何でドッグフード!? 意味が分からない。 見た限り、自宅に犬などいなかったように思うが、別宅で飼っているのだろうか? それにしたって、湿気た物をむき出しでヒトに渡すとは失礼極まりないではないか。 私は呆気に取られてしまった。 「で、でも、私は肉まんが・・・・・・」 私は混乱しながらも食い下がってみたが、 「いいからいいから! これ以上は商売の邪魔だよ。もうあっちへ行きな!」 と、おばちゃんに背中を押されて追っ払われてしまった。 「何で! お金ならいくらでもっ・・・・・・!」
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