恋が始まる瞬間

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「すっかり遅くなってしまったな」 ヨンウォン皇子が静かに口を開いた。 いつの間にか雨は上がり、灰色だった空はまた青い空へと戻り始めていた。 「ほんとですね。雨も上がったことだし、そろそろお屋敷に戻らないと」 私たちは馬を繋いでいた場所まで歩いていき、そのまま馬に乗って屋敷へと向かった。 だけど。 やっぱり馬という乗り物は全く慣れなくて。 私は屋敷へと戻る間、声が枯れてしまうほどキャーキャーと叫び続け、天然のジェットコースターのような馬の乗り心地に失神しそうになっていた。 そんな私の後ろで皇子は楽しそうにククッと笑っていた。 屋敷に到着すると、門の外でミンジュンさんが心配そうに私たちを待ち構えていた。 先にスルリと馬から降りたヨンウォン皇子が私に向けて手を伸ばす。 その皇子に抱きつくように、私は馬から降ろしてもらった。 「実桜どの…。心配しました」 「あっ、ミンジュンさん、来られてたんですねー。あー、怖かったー」 馬から降りた私は、あの天然ジェットコースターのような馬から解放され、大きく息を吐いた。 「実桜、怖がりすぎだ。大丈夫だから安心しろと言ったであろう」 怖がる私を見てヨンウォン皇子がまたフフッと笑う。 「だって、あんなに早く馬を走らせるなんてー。怖くて、ほんとに落ちると思ったじゃないですか!」 私は口を尖らせながら頬を膨らませた。 そんな私たちを見ていたミンジュンさんが、少し不機嫌な顔をしながら怒ったように口を開いた。 「ヨンウォン、実桜どのはまだ病み上がりなのだ。馬に乗せてどこに行っていたのだ」 「申し訳ない。もう少し早く送り届ける予定だったのだが」 ヨンウォン皇子がミンジュンさんに軽く頭を下げながら謝る。 「夕方までには帰ると言っていたから、ボクシム先生もミランさんも心配していたのだぞ」 「本当に申し訳ない」 いつものミンジュンさんならすぐにニッコリとした笑顔を向けてくれるのに、今日は皇子が謝ってもいつもと違って不機嫌そうだ。 私の身体のことを心配してくれているようで、喧嘩と言うわけじゃないけど、少し不穏な空気が流れているような気がする。 「ミ、ミンジュンさん」 私は申し訳なさそうな顔をしながら、ミンジュンさんの顔を覗き込んだ。
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