誕生日のプレゼント

1/17
前へ
/208ページ
次へ

誕生日のプレゼント

少しずつ夏の厳しさも和らぎ、どこからともなく金木犀の香りが漂い始めた。 道端には黄金色に染まったススキが揺れ、ピンクや白の可憐なコスモスが咲き、空にはきれいな秋空が見える。 賑やかだった蝉の鳴き声も聞こえなくなり、いつの間にかリーンリーンと鳴く鈴虫の音色に変わっていた。 そんなある日、ボクシム先生が私に王宮まで届け物をしてくれないかとお願いをしてきた。 「実桜、ヨンウォン皇子様に書物を届けてほしいのだが、頼んでもよいかな?」 「はい。大丈夫ですけど」 私は少し不思議に思いながらも、ボクシム先生にニコっと微笑み頷いた。 ボクシム先生が私に用事を頼むとは珍しい。 それも王宮への届け物なんて。 そんな私の疑問を察知したのか、ボクシム先生は申し訳なさそうな顔をして口を開いた。 「本当は私が直接届けようと思っていたのだが、どうしても外せない用ができてしまってな。なのでミンジュンに頼もうと思ったのだが、ミンジュンは直接ヨンウォン皇子様のところに行くようなので、悪いが実桜に頼んでもよいかな?」 「それは全然大丈夫ですけど、今日は王宮で何かあるのですか?」 「今日はヨンウォン皇子様の誕生日でな。それでこの書物を皇子様への贈り物として届けようと思っておったのじゃ」 「今日はヨンウォン皇子様のお誕生日なんですねー」 私の言葉にボクシム先生は優しい笑みを浮かべてにっこりと頷く。 「ああそうなのだ。ヨンウォン皇子様は第二皇子様なので派手な誕生会は行われないのだが、喜ばしい日なので書物が好きな皇子様にこれを送りたくてな」 私はふうんと頷きながらボクシム先生の横に置いてある書物を見た。 筆で手書きされた、あの記録書のような書物だ。 ボクシム先生はその書物を手に取り、辛子色の布に包みながらさらに言葉を続けた。 「それとこの書物は皇子様への贈り物なので返却はいらないと、そう皇子様に伝えてくれるかな」 「わかりました」 「あんなことがあったから王宮には近づきたくないと思うのだが、本当に申し訳ないな」 ボクシム先生は顔を曇らせて、再び申し訳なさそうな顔を私に向けた。
/208ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4071人が本棚に入れています
本棚に追加