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「それとボクシム先生からのご伝言がありまして、この贈り物は書物なのですがお誕生日の贈り物ですので返却はよいそうです。なので皇子様にそうお伝えいただけますか?」
「わかりました」
ソンヨルさんは微笑みながら大きく頷いた。
「ではソンヨルさん、よろしくお願い致します」
私はそう言ってクルリと後ろを向き屋敷に戻ろうとすると、ソンヨルさんが不意に後ろから私を呼んだ。
「実桜どの」
「はい」
ソンヨルさんの方へ振り返る。
するとソンヨルさんが先ほどと同じ爽やかな微笑みのまま、口を開いた。
「実桜どの、今日は通行証をお持ちですか?」
「は、はい…。持ってますけど」
「ではこの贈り物をヨンウォン皇子様に直接お渡しいただけませんでしょうか? 私はこれから用事があったのを忘れておりまして。皇子様のところまでご案内致しますのでお願いできますでしょうか?」
「は、はい。それは大丈夫ですけど」
「ではご案内しますので私について来ていただけますか?」
ソンヨルさんはそう私に告げるとうれしそうにニッコリと微笑んだ。
そして門の前の警備兵に私がヨンウォン皇子への客だと説明し、通行証を見せて私を王宮の中へと連れて行った。
王宮に入ったのはこの間のあの出来事のとき以来だった。
ヨンウォン皇子の部屋へと向かう間、武官に尋問され、殴られ、怖かった記憶が鮮明に蘇ってくる。
せっかくサラ皇女たちと楽しくお茶会をしたり、みんなで舟に乗って和気あいあいと笑い合っていたのに、そんな楽しい思い出があの出来事のせいですっかりと影を潜めてしまっていた。
(お茶会も舟での競争もすごく楽しかったな…)
(またみんなであんな風に遊びたいな…)
ソンヨルさんの後ろをついて歩きながら、私はあの日の楽しかった時間を思い返していた。
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