誕生日のプレゼント

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「私の母は私を産んでから体調を崩されてな。母上の身体が弱かったこともあって、私は母上と一緒に過ごした記憶がほとんどないのだ。一緒に食事をしたことも、一緒に遊んだことも、抱きしめてもらったこともない。もちろん誕生日を祝ってもらったことなどもないしな。 もしかしたらそのようなことがあったのかもしれないが、私の記憶の中には母上と一緒に何かをしたという記憶がないのだ。ただ、いつも穏やかに微笑んでいて、とても優しい方だったということだけはかすかに記憶がある」 皇子はそう言うとゆっくりと目線を上げ、遠くを見つめた。 そしてそのままふうっーと小さく息を吐き、また話を続けた。 「母上と一緒にいれない分、内官や侍女たちがいつも私と一緒にいてくれたゆえ寂しく感じたことはなかったのだが、小さいころは兄上やサラが母親に抱きついたり、手を握ってもらったり、頭を撫でてもらったりするのを見るのが辛くてな。 そのような場面を見ないように部屋の中で学問に勤しんだり、必死に武芸に取り組んでいたりしたものだ。 まあそのおかげでソンヨルやミンジュンという信頼できる友もできたのだが、私を産むことさえしなければ母上はもっと長く生きていられただろうに。そう思うと母上に申し訳なくてな…」 遠くを見つめながら話す皇子の顔はとても優しい顔をして微笑んでいた。 だけど私は皇子のその表情にとてつもなく胸がきゅーっと締めつけられていた。 顔は優しく微笑んでいるように見えるけれど、その奥の奥に隠れている寂しくて、哀しくて、切なくて、辛かった気持ちが手に取るように感じられたからだ。 皇子は今までどんな思いを抱えて生きてきたのだろう。 幼いころから誰にも甘えることができず、その気持ちを押し殺すように学問や武芸に必死に取り組み、自分のせいでお母さんの命が縮まったと責任を感じ、そのうえ第二皇子という立場から皇室のためと思い、婚姻することさえ諦めようとしている。 そんな辛い素振りなんて全く見せることもせず、国のため、父のため、兄のために力になろうとする。 お母さんに思いっきり甘えたかっただろうに、抱きしめてもらいたかっただろうに、学問に勤しむことで、武芸に取り組むことで、必死に心の均衡を保ってきたのかもしれない。
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