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バサッ-。
突然、目の前が真っ暗になる。
一瞬、私は何が起こったのか分からなかった。
だけど、その状況を理解するのに時間はほとんどかからなかった。
「実桜…、少し…、少しの間だけこうしていてもよいか」
ヨンウォン皇子の声が耳元で聞こえる。
それは小さくて、とても小さくて、消え入りそうな声だった。
私はびっくりしながらも、それを皇子に悟られないように返事をした。
「はい…」
皇子はそれから一言も話すことなく、しばらくの間、私を抱きしめていた。
強く。強く。自分の辛い気持ちを抑え込むように…。
皇子に抱きしめられたまま、ゆっくりと時間が流れていく。
こういうとき、気の利いた女性なら何か優しい言葉をかけてあげるのだろうけれど、私には皇子にどんな言葉をかけてあげていいのかが分からなかった。
『皇子様はひとりじゃないです』
『皇子様のせいじゃないですから』
『皇子様、辛いときは我慢しないでください』
『みんな皇子様のことが大好きです』
いろんな言葉は頭に浮かんでくるけれど、それはどれもふさわしくないような気がした。
どうして気の利いた言葉が浮かばないんだろう…。
こんなときはどんな言葉をかけてあげたらいいんだろう…。
どんなに考えてもふさわしい言葉が浮かんでこない。
私は言葉をかけることは諦めて、皇子の背中にそっと自分の手を回した。
皇子の鼓動がかなり速いスピードで波打っているのが伝わってくる。
その鼓動は今まで抑え続けてきた皇子の心が泣いているように感じられた。
次第に私の目からは自然と涙が溢れてきた。
(皇子様、今まで辛かったよね…)
(ごめんね。私には辛さを癒してあげれる言葉が何も浮かばなくて…)
そして言葉の代わりに、私はギュッと皇子を抱きしめた。
皇子の気持ちが少しでも楽になるようにと願いながら…。
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