4070人が本棚に入れています
本棚に追加
ヨンウォンは母への思いを他人に吐露したのは初めてのことだった。
今まで自分から話したこともなかったし、決して話そうともしなかった母への思い。
それは、声に出してしまうと今まで抑えていた自分の気持ちが消化できなくなるような気がして怖かったからだった。
なのに、なぜ?
実桜になぜ誕生日を母と過ごさないのかと聞かれたから?
それもあったかもしれない。
でも自分でもどうしてなのかよくわからなかった。
ただ、話したとしてもなぜか自分の中で耐えれるような気がしたのだった。
そして気がついたときには実桜を自分の腕の中に抱き寄せていた。
実桜を腕の中に抱きしめたまま、実桜に言われた言葉が頭の中で何度も繰り返される。
『皇子様のお母様、皇子様を産んで本当に幸せだったと思います』
『皇子様と一緒にいる時間は少なかったかもしれないけど、皇子様が生まれてきてくれて、とってもうれしかったはずです。』
『心の温かい “柔しさ” と “剛さ”を持った人に育ってくれて、ありがとうって言ってらっしゃると思います』
自分を産むことさえしなければもっと存えられていた母の命。
ずっとその罪悪感を抱えながら生きてきた。
母に甘えることができないのはその報いだと思っていた。
母に対して申し訳ないと思うだけで、母が幸せだったとは一度も考えたこともなかった。
だが実桜は母は幸せだったといい、喜んでくれていると言ってくれた。
本当にそうだったのだろうか…。
それは母にしか分からないことだが、ヨンウォンはそうであってほしいと心の中で願っていた。
自分の中の弱さを、怖さを、辛さを抑え込むように、実桜の身体をギュッと抱きしめる。
それに応えるように実桜も自分の身体を強く抱きしめてくれていた。
その実桜の温もりに、ヨンウォンの心の奥に抑え込んできたものが少しずつ少しずつ溶け始めていく。
穏やかで、やわらかで、心安らぐ腕の中の温もり。
それと同時に、ヨンウォンは初めて湧き上がってくる気持ちを感じ始めていた。
実桜への思い。
それは今まで女人に対して感じたことのない 『愛おしい』 という思いだった。
自分は実桜のことを愛しているのだと気づくのに、時間はかからなかった。
最初のコメントを投稿しよう!