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「お、皇子様…」
皇子を呼ぶ声が涙で鼻声になっている。
皇子は変わらず優しい眼差しを私に向けた。
私は自分の首にかけてあった桜のお守りを外し、皇子に差し出した。
「これ、お誕生日のプレゼントに皇子様に差し上げます」
「ぷれぜんと?」
「あっ、そっか…。えっと、お誕生日の贈り物です。これ、エメラルドっていう愛の石と御衣黄っていう桜の花がついたお守りなんです。これを持っていればきっと皇子様のことを思ってくれて、大切にしてくれる人に巡り会えると思います」
ヨンウォン皇子は私が差し出したお守りを手に取った。
何も言わずじっとお守りを見つめている。
「あっ、新しくなくて申し訳ないんですけど。今日が皇子様のお誕生日だとは知らなかったから、私なんにも用意してなくて…。でもこれ最強のお守りですから」
そう言って私は片手で握りこぶしを作り、ニコリと笑顔を向ける。
「新しいとか古いではなく、これは実桜の大切なものではないのか?」
皇子はお守りを見つめたまま独り言のように呟いた。
「そうなんですけど、私はまた日本に戻ったらこのお守り買えますし。皇子様には今までたくさん助けてもらったから」
「日本に戻る? 実桜、日本に戻るのか?」
皇子が驚いたような声を出し、私の方へ向いた。
「あっ、いや、あの、いつ日本に戻れるかは分からないけど、日本に戻ったらまた買えるっていう意味で…。第一どうやって戻っていいのか全然わからないし…」
「そ、そういう意味か…」
皇子は少し安心したように薄い笑みを浮かべた。
「あっ、そうだ」
私は両手をポンと叩く。
「なんだ? 今度はなんだ?」
皇子がまだ何かあるのか? というような顔をして、クスッと笑いながら私の顔を見る。
私は口元を緩ませてコクンと頷き、立ち上がって部屋の灯りの中から炎のついた蝋燭をそっと1本取り出してきた。
そして炎が消えないように気をつけながらそれをお皿の上にある桃のお饅頭に挿し、そのお皿を両手で持って皇子の目の前に差し出した。
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