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オレンジ色の蝋燭の炎が目の前でゆらゆらと優しく揺れている。
「何をしているのだ?」
「せっかくのお誕生日ですから、皇子様お祝いしましょー」
そう言って両手でお皿を持ったまま、私は皇子に笑顔を向けた。
皇子はこれから何が起こるのか? というような眼差しで私の顔を見ている。
「皇子様、ちょっと恥ずかしいのですがこれから私が歌を歌いますので、歌が終わったらこの蝋燭の炎を吹き消してください。ただ2つだけ重要な決まりごとがありまして、この蝋燭の炎を吹き消す前に願いごとをすることと、炎はひと息で吹き消してくださいね」
「んっ? どういうことだ?」
「お誕生日の時って、こうやってケーキ…じゃなくて、えっと、お饅頭とかお菓子に蝋燭を挿して願いごとをしながらその蝋燭の炎をひと息で吹き消すと、その願いが叶うって言われてるんです」
「願いが叶う?」
「はい。神様がお誕生日のお祝いに願いごとを叶えてくれるんです」
「神様が願いを叶えてくれる?」
「はい。1年に1回の神様からの贈り物なんです。でもその代わり、ひと息で蝋燭の炎を吹き消さないと神様は願いごとを叶えてくれませんからね!」
「願いごとか…」
皇子はそう呟くと、目線を斜め上に向けて何か考え始めた。
皇子が願いごとを考えている間、私は蝋燭の炎が消えないように注意しながら目の前の桃のお饅頭を見つめていた。
(ほんとは桃のお饅頭じゃなくて、お誕生日ケーキでお祝いしたかったけど…)
(蝋燭は年齢の数だけ挿してあげたかったけど…)
(皇子がお誕生日の楽しい雰囲気を味わってくれれば、いいよね…)
しばらくして、皇子は願いごとを思いついたのか、私の方へと視線を戻した。
「皇子様、願いごと考えました?」
皇子は柔らかな表情で静かに頷いた。
「では私が歌を歌い終わったら願いごとしてくださいね。じゃあ歌いますよー」
私はそう言ってハッピーバースデーの歌を皇子に向けて歌い始めた。
「ハッピーバースデー トゥーユー ハッピーバース…」
(あっ…)
歌の途中であることに気づいて、私は急に歌をやめた。
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