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初めて感じた “好き” という思い。
それは、ミンジュンさんやソンヨルさん、ボクシム先生やミランさんに感じる “好き” ではなくて。
どうしようもなく心が惹かれて、想いを抑えることができない “好き” という気持ちだった。
だけど、その “好き” は、私が思い描いていたものとは全く違っていて。
うれしくもなく、幸せでもなく、笑顔でいることもできず、ただ苦しくて、辛くて、痛くて、切ないものだった。
初めて好きになった人。
初めて好きだと思える人。
その人にやっと出逢えたのに。
それがヨンウォン皇子だなんて。
ソユンさんと結婚する人だなんて。
心の中が満たされない思いでどんどん溢れてくる。
チラリと隣に視線を向けると、ヨンウォン皇子とソユンさんが並んで簪を見ているのが目に入った。
急いで視線を自分の目の前のテーブルへと戻す。
2人の姿を見て鼓動が激しく動き始め、またさらに胸が苦しくなる。
再びじわじわと涙が浮かんできた。
目の前に置かれた簪や首飾りがどんどん涙でぼやけていく。
すると。
「実桜どの、どれか気に入った簪はありませんか? 私に贈らせてください」
ふいにミンジュンさんの優しい声が頭上から降り注がれた。
「あ、ありがとうございます。どれがいいかな」
選んでるふりをしながらいろんな簪を手に取ってみるけれど、隣のテーブルにいる皇子とソユンさんのことが気になって仕方がない。
皇子はソユンさんと結婚するんだから。
好きになったってどうにもならないんだから。
これ以上好きになったらもっと苦しいだけなんだから。
一生懸命、自分の心に言い聞かせる。
必死で堪えていたのに目尻から涙がぽろりと零れ落ちた。
零れ落ちる涙を抑えるようにギュッと目を瞑る。
目を瞑ったはずなのに、視界は真っ暗になっているというのに、脳裏には鮮明に皇子の顔が浮かんでくる。
好きになっちゃだめなのに…。
私は頭の中の皇子が消えてしまうように、力を入れてもう一度ギュッ目を瞑った。
(実桜、泣いちゃだめ…)
両手を頬にあてて筋肉を動かし再び笑顔を作る。
そして、そのままミンジュンさんに視線を向けた。
「ミンジュンさんに選んでいただいたこの簪にします」
私はそう言ってニコッと微笑むと、自分の頭に挿してある黄色い菜の花の簪を指さした。
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