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「ぎゃあーーー」
叫び声が聞こえた。
なぜかそれは実桜の叫び声のように思えた。
実桜の叫び声であるはずがないのに。
ここまで実桜の幻想を抱くようになったのかとヨンウォンはフッと笑った。
その声が聞こえたと同時に、ドサッと背中に重たいものがのしかかった。
おそらくミンジュンが自分に向かってきたごろつきを切りさばいてくれたのだろう。
ヨンウォンは背中に覆いかぶさっているものをよけようと身体を動かそうとした。
「実桜どのー。実桜どのー」
「いやー。実桜さまー。実桜さまー」
ミンジュンとソユンの叫ぶ声が聞こえる。
ヨンウォンは後ろを振り返った。
実桜が着ていた着物だ。
その着物にはべっとりと血がついている。
下には実桜が先ほどまで髪に挿していた菜の花の簪が落ちている。
んっ? 実桜?
ヨンウォンは急いで背中に覆いかぶさっている者の顔を見た。
「み、実桜ー!!!」
即座に実桜をおろして抱きかかえ、実桜に呼びかける。
「実桜さま、実桜さま」
「実桜どの!」
ミンジュンもソユンも呼びかけるが実桜は全く反応を示さない。
実桜の背中からはどんどん血が流れていた。
「実桜を、実桜を早く手当てせねば…。ミンジュン、実桜を王宮へ連れて帰るゆえ、早く、早く馬を探してくれ。どこかに馬はないか? ミンジュン、頼む。急いでくれー」
そうミンジュンに叫びながら、ヨンウォンは自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。
「任せろ。すぐに調達してくる」
ミンジュンは急いで近くに馬を探しに走った。
「実桜ー! 目を開けてくれ! 実桜!!!」
何度叫んで名前を呼んでもぐったりとしたまま全く動かない実桜に、ヨンウォンの鼓動は猛スピードをあげて激しく波打ち続ける。
「実桜ー! 実桜ー!」
腕の中に横たわる実桜の姿を見ながら、心がどんどん凍りついていく。
ミンジュンが息を切らしながら馬を連れて戻ってきた。
ヨンウォンは実桜を抱きかかえるようにして馬に乗せると、急いで王宮へと向かった。
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