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愛しいひと
実桜を王宮へと連れて帰ったヨンウォンは、部屋の前にいた内官にすぐに医官長を呼んでくるよう指示をした。
「内官、医官長を呼んでくれ。今すぐにだ。早く、急げ」
実桜を抱きかかえたヨンウォンが興奮したように声を荒げる。
「はっ、はい。かしこまりました」
ヨンウォンの顔面が蒼白しいつもと違ってかなり取り乱している様子に、内官はそう返事をすると急いで医官長を呼びに行った。
ヨンウォンは内官に指示を出したあと、抱きかかえた実桜を自分の部屋へと運び、侍女に布団を用意させると、その上に実桜をゆっくりと寝かせた。
「実桜…実桜…」
ヨンウォンが実桜の名前を呼び掛けても実桜は目を開けるどころか、ぐったりとしたまま全く動きもしない。
急いで王宮へと連れて帰ってきたものの、刀で切られてからもうすぐ半刻が経とうとしている。
ヨンウォンは実桜の手を握った。
実桜の顔を見つめながら握った手を包み込むように優しく擦る。
実桜の手からはかろうじて体温を感じるが、ピクリとも動かない実桜に、得体の知れない不安がどんどん押し寄せ、その不安から最悪な事態を想像してしまう。
「実桜、どうして…、どうして自分の身を危険にさらしてまで私を助けようとしたのだ。そなたの命が…、命が消えてしまうかもしれないではないか…。実桜、目を開けてくれ。実桜…」
ヨンウォンが何度呼び掛けても実桜は目を開けることはなかった。
間もなくして、部屋の外から内官の声がした。
「皇子様、医官長様をお連れ致しました」
「早く、早く通せ」
ヨンウォンのイライラした声にすぐに扉が開き、医官長と医女が2名、部屋の中へと入ってきた。
「皇子様、どうされ…」
「医官長、挨拶はよい。すぐに、すぐに実桜を診てくれ。刀で切られたのだ。もう半刻は過ぎている。全く動かないうえ、目も覚まさない。呼びかけても反応がないのだ。早く診てくれ、早く」
「かしこまりました」
ヨンウォンの尋常ではない姿に、医官長は速やかに実桜のそばへ行き、手首を掴み、脈を確認し始めた。
目を閉じたまま眉間に皺をよせ、顔を歪めている。
ヨンウォンは心配そうに顔を曇らせながら、医官長と実桜の顔を交互に見ていた。
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