愛しいひと

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医官長は閉じていた目を開き、とても難しい顔をして実桜の手を布団の上に置いた。 そして連れてきた医女に薬草の名前を告げると、急いでその薬草を調合してくるように命じた。 「医官長、どうなのだ? 実桜の具合は? 実桜は、実桜は大丈夫なのか?」 ヨンウォンが居ても立っても居られないといった様子で、心配そうに顔を曇らせたまま医官長に問いかける。 医官長は苦しげな表情を浮かべ、言いにくそうに口を開いた。 「皇子様、大変申し上げにくいのですが、脈拍が相当弱っており、かなり危険な状態でございます。目を覚まされるかどうかはわかりません」 「なんだと? 危険な状態だと? 目を覚ますかどうかわからない? なぜだ? なぜなんだ、医官長!」 ヨンウォンが声を荒げる。 「皇子様、刀の傷が思いのほか深く、それにより大量の出血があったと思われるため、心臓がかなり弱っております。これからすぐに刀の傷の出血を抑え治療を致しますが、目を覚まされるかどうかは、こちらの女人の生命力次第でございます」 「実桜の生命力次第だと? そんな…」 医官長の診断を聞いたヨンウォンが大きく目を開いたまま、愕然と項垂れる。 「鍼は? 鍼を打って回復させることはできぬのか?」 ヨンウォンが思い出したように項垂れていた頭をあげ、叫ぶように言い放つ。 「はい、皇子様。鍼はこの女人の体力がもう少し回復しないと打つことはできません」 医官長は苦悶な表情を浮かべ、静かに首を左右に振った。 「医官長、とにかくどんなことをしてでも実桜を助けてくれ。頼む。お願いだ。どうか、どうか実桜を助けてくれ」 ヨンウォンは真剣な表情で医官長の目をじっと見つめ、そのまま頭を下げた。 「お、皇子様、何をされるのですか! どうかお止めください。脈拍が弱っているのと、こちらの女人の生命力次第なのは変わりないのですが、3日…、いえ5日…。5日の間にこの女人が目を覚ますか、もしくは脈拍が少しでも回復すれば鍼を打つことは可能になります。それまで私たちもできる限り最善を尽くしますので、皇子様、もうしばらくお待ちください」 医官長はそう言うと、頭を下げて頼むヨンウォンを必死で制した。
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