愛しいひと

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「実桜が…、実桜が5日の間に目を覚ましたら、鍼を打てるようになるのだな?」 ヨンウォンが縋るように医官長に問う。 「はい。この女人が5日の間に目を覚ませば、危険な状態は回避できたと考えられますので…」 医官長はヨンウォンを真っ直ぐに見つめ、そう告げた。 医官長の診断通り、実桜の切られた傷は思っていたよりも相当深く、3日経っても実桜は一度も目を覚まさなかった。 ヨンウォンは毎日地方から上がってくる訴状を確認し、その内容を王様に報告する業務を粛々とこなしながら、時間が空くと部屋に戻り、実桜の容態を確認していた。 実桜が目を覚ますことがないまま4日目が過ぎようとしていた。 医官長から言われた期限はあと1日。 実桜はただ眠っているように、とても可愛らしい顔をして目を閉じている。 「実桜、なぜ目を覚まさないのだ…」 ヨンウォンはそう呟きながら実桜の髪を優しく撫でた。 そのまま手を頬へと移し、包み込むように優しく触れる。 「私はそなたにまだ何も伝えてないのだ。実桜、頼むから早く目を開けてくれ…」 ヨンウォンは懇願するように、目を閉じている実桜の顔をじっと見つめていた。 実桜の顔を見つめながら、先日の誕生日の出来事が思い出される。 初めて過ごした心温まる誕生日。 誕生日の贈り物として実桜の大切なお守りをもらい、実桜に歌を歌ってもらいながら、願いごとをした蝋燭の炎を消し、また、一緒に笑いながら饅頭を食べ、本当に楽しい誕生日だった。 そして、初めて感じた実桜への想い。 実桜のことを愛しているという想い。 その想いを実桜に伝えたかった。 あの時、実桜に 『蝋燭の炎を吹き消す前に、何でも好きな願いごとをしてください』 と言われた時、ヨンウォンは実桜のことを手放したくないと願っていた。 ずっと、一生、永遠に、実桜と一緒に生きていきたいと、心から願っていたのだ。 「実桜、神様は1年に1度、願いを叶えてくれるのではなかったのか? そなたはそう言ったであろう。私は…、私は…、心からそう願ったのに…」 ヨンウォンはそう実桜に語りかけながら、衣装の袖の中から1本の簪を取り出した。
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