愛しいひと

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実桜が以前ごろつきたちに襲われたとき、市場で見ていたあの黄緑色の桜の花の簪だった。 あの祭りのとき、ヨンウォンはこっそりと購入し、誕生日にお守りをくれたお礼として実桜に贈ろうと思っていた。 だが実桜はミンジュンと一緒に祭りへ行く約束をしていたと知った。 そのことを知ったときは心が締めつけられるように苦しくなった。 それと同時に『どうしてミンジュンなのだ…』とミンジュンへの嫉妬を初めて感じた。 ミンジュンのことが好きなのかと実桜に問いつめたが、実桜は違うというだけで、あとは何も言わなかった。 それに実桜はなぜかヨンウォンとソユンのことを気にしていた。 そのことが気になってあれからソンヨルに極秘でいろいろと調べさせた結果、実桜が自分とソユンのことを気にしていた理由がやっと判明した。 どうやらサラの母親であるナヨン王妃が、ヨンウォンとソユンの婚姻を水面下で進めていたようだった。 実桜はそれをどこからか聞いて、自分とソユンのことを気にしていたのだろう。 だがそれは、ナヨン王妃が勝手に進めていたことであって、ヨンウォンは自分とソユンに婚姻の話が持ち上がっているとは全く知らなかった。 皇子がいないナヨン王妃にとっては、これから皇子を産まない限り、この王宮で力を持つことは不可能に等しい。 たとえ皇子を産んだとしても王位継承権は3番目になる。 そのため、自分の親戚であるソユンと母親のいないヨンウォンを婚姻させることによって自分の親戚の者たちを王宮の高官として就任させ、この王宮での力を強めようとしていたのだった。 力を強めれば、兄上や現王妃を失脚するように画策もできる。 そうしてこの王宮での地位を確実なものへとしていくつもりだったのだろう。 ヨンウォンは手に持っていた簪をギュッと握りしめた。 「実桜、一度でよいから目を開けてくれ。頼む…。実桜…」 ヨンウォンは実桜の顔を見つめながら何度もそう呟いた。
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