愛しいひと

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「はっ、はい、皇子様」 「すぐに医官長を呼んでくれ。今すぐにだ。早く! 急げ!」 「はい。わかりました」 ヨンウォンの形相にただごとではないと感じた内官は、急いで医官長を呼びに行った。 「実桜! 実桜!」 ヨンウォンは実桜の名前を何度も呼び続けた。 実桜が目を覚ますかもしれないという期待から、ヨンウォンの鼓動が激しく動き始める。 「医官長はまだか!まだなのか!」 ヨンウォンが声を荒げながら部屋の外に向かって何度も叫ぶ。 「皇子様、医官長様が到着…」 「早く通せ!」 ヨンウォンは医官長の到着を告げようとした内官の言葉を遮り、医官長を部屋の中へと入れた。 医官長が部屋へ入ってくるなりヨンウォンは、 「医官長、今、2度ほど実桜の手が動いたのだ。早く、早く診てくれ」 と、興奮した口調で告げる。 「かしこまりました。皇子様」 医官長はヨンウォンに頭を下げると、実桜の手を取り、目を閉じて脈拍を確認した。 ヨンウォンはその様子を真剣な表情で見ている。 医官長は目を閉じたまま小さく頷くと、実桜の手をゆっくりと下ろした。 そして、ヨンウォンの方へと向き、 「皇子様、脈拍が少し強くなってきておりますので、おそらく危険な状態は回避できたものと思われます。この脈拍の強さでしたら鍼を打つことが可能ですので、これから早速鍼を打ち、治療を始めさせていただきたいと思います。目を覚まされるまでもうしばらく時間はかかるかもしれませんが、おそらく大丈夫でございます」 と、穏やかな顔をして告げた。 「そ、そうなのか? 実桜は…、実桜は大丈夫なのか? これで安心できるのか?」 「はい。危険な状態は回避できましたのでもう大丈夫でございます。ご安心ください」 「分かった。では、早く、早く鍼を打って治療を始めてくれ」 「かしこまりました」 医官長はそう言って頭を下げると、持ってきていた布包から鍼を取り出し、実桜の手や腕、顔や足に次々と刺していった。 鍼を刺し、そのまま少し時間を置いたあと、今度はその鍼を確認しながら次々と抜いていった。 そして全部鍼を抜き終わったあと、再びヨンウォンの方へ向いて口を開いた。
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