愛しいひと

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「皇子様、医官長様が到着されました」 扉の外から内官の声が聞こえると、ヨンウォンは即座に医官長を部屋の中へと通した。 「医官長、先ほど実桜が目を覚ました。私と少し会話をしたのだが、また少し眠ってしまったようだ」 「さようでございますか。では脈拍を確認致します」 医官長は実桜のそばに移動して、手を取り、脈拍を確認し始めた。 そして2、3回軽く頷くと、ゆっくりと実桜の手を下ろした。 「皇子様、脈拍が安定しかなり落ち着いてまいりました。もう大丈夫でございます。どうぞご安心ください」 「もうこれで本当に安心できるのだな?」 ヨンウォンが念を押すように医官長に強い口調で問う。 「はい。大丈夫でございます。ですがしばらくの間は外出をお控えいただき、また無理をせず、安静にお過ごしください」 「わかった。外出は控え、無理することなく安静に過ごさせるようにする」 「それともうひとつ…」 医官長は少し言いづらそうに顔を曇らせ、ヨンウォンの顔を見た。 「なんだ? 何かあるのか?」 ヨンウォンが不安そうな目つきで医官長に聞き返す。 「はい。身体は大丈夫なのですが、ただ…」 「ただ、なんだ?」 「おそらく背中の傷は一生残ってしまうかと思われます」 「刀で切られた傷のことか?」 「はい。さようでございます。女人ですので身体に傷が一生残ってしまうとなると、悲しまれるのではないかと…」 医官長がそう告げると、ヨンウォンは眠っている実桜の方へ視線を向けた。 何も言わず実桜の顔をじっと見つめている。 「皇子様?」 医官長がヨンウォンの顔を窺うように視線を向ける。 「わかった。もうよい。また何かあれば内官を送る」 医官長は静かに頭を下げ、その場からそっと離れていった。 医官長が部屋から出て行くと、ヨンウォンは穏やかに眠っている実桜の顔を見ながら両手で包み込むように実桜の手を握った。 耐え難い痛みが胸の奥に沸々と湧き上がってくる。 ヨンウォンは呟くように言葉を漏らした。 「実桜、私はそなたの身体を傷つけてばかりだな。水中に沈んで助けてもらった時も、ごろつきの刀から助けてもらったときも…。私はそなたの身体を傷つけてばかりいる。どうしたらよいのだ…。こんなにもそなたのことを愛しているというのに…」
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