愛しいひと

12/17
前へ
/208ページ
次へ
「実桜、どこに帰れないのだ?」 いつの間にか部屋に戻ってきていたヨンウォン皇子が、私のそばに腰を下ろしながら尋ねた。 「あっ、皇子様。お帰りなさい。いえ、なんでもないです…」 私はうっすらと微笑みながら小さく首を横に振った。 「んっ? ボクシム先生の屋敷に帰りたいのか?」 皇子が柔らかい笑みを浮かべて私の顔を覗き込む。 「いいえ…」 「なんだ? どうしたのだ?」 「あの…、寝ているときに夢を見てまして…。両親が夢の中に出てきて一緒にお家に帰ろうって言ってたんです。あの時一緒に帰ってたら、日本に帰れてたのかなって思ってしまって…」 私がそう口にした途端、皇子は悲しそうな顔をして私の顔をじっと見つめた。 そして、私の髪を撫でるようにそっと触れると、 「実桜、日本に帰りたいのか?」 と、切なそうに尋ねた。 「は、はい…。私はこの国の人間ではないですし、両親も心配してましたし…。それに私がここにいたら皇子様の婚姻が遅れてしまいます」 皇子にそう告げた瞬間、心の奥がズキズキと痛み始める。 私は耐えきれず視線を下へと落とした。 涙が零れ落ちそうになるのを必死で堪える。 すると、皇子が私の頬を両手で優しく挟み、ゆっくりと自分の方へ向けた。 皇子の目には涙が浮かんでいた。 そして、とても辛そうな顔をして口を開いた。 「実桜、私のせいで申し訳ないな。そなたの身体を傷つけてばかりだから、もうこの国には居たくないと思うのは当然のことだな。私が水中で沈んでしまったときも、刀で切られそうになってしまったときも、私のせいでそなたの身体を傷つけてばかりいる。それに…、それにもうひとつ、実桜に謝らなければならないことがあるのだ。刀で切られた背中の傷だが一生残ってしまうそうだ。本当に本当に申し訳ない…。全て私のせいだ。そなたには助けてもらってばかりだというのに、私はそなたの身体を傷つけただけで何もしてやれない…」 皇子はとても辛そうに眼を潤ませていた。
/208ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4067人が本棚に入れています
本棚に追加