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「実桜、どこに帰れないのだ?」
いつの間にか部屋に戻ってきていたヨンウォン皇子が、私のそばに腰を下ろしながら尋ねた。
「あっ、皇子様。お帰りなさい。いえ、なんでもないです…」
私はうっすらと微笑みながら小さく首を横に振った。
「んっ? ボクシム先生の屋敷に帰りたいのか?」
皇子が柔らかい笑みを浮かべて私の顔を覗き込む。
「いいえ…」
「なんだ? どうしたのだ?」
「あの…、寝ているときに夢を見てまして…。両親が夢の中に出てきて一緒にお家に帰ろうって言ってたんです。あの時一緒に帰ってたら、日本に帰れてたのかなって思ってしまって…」
私がそう口にした途端、皇子は悲しそうな顔をして私の顔をじっと見つめた。
そして、私の髪を撫でるようにそっと触れると、
「実桜、日本に帰りたいのか?」
と、切なそうに尋ねた。
「は、はい…。私はこの国の人間ではないですし、両親も心配してましたし…。それに私がここにいたら皇子様の婚姻が遅れてしまいます」
皇子にそう告げた瞬間、心の奥がズキズキと痛み始める。
私は耐えきれず視線を下へと落とした。
涙が零れ落ちそうになるのを必死で堪える。
すると、皇子が私の頬を両手で優しく挟み、ゆっくりと自分の方へ向けた。
皇子の目には涙が浮かんでいた。
そして、とても辛そうな顔をして口を開いた。
「実桜、私のせいで申し訳ないな。そなたの身体を傷つけてばかりだから、もうこの国には居たくないと思うのは当然のことだな。私が水中で沈んでしまったときも、刀で切られそうになってしまったときも、私のせいでそなたの身体を傷つけてばかりいる。それに…、それにもうひとつ、実桜に謝らなければならないことがあるのだ。刀で切られた背中の傷だが一生残ってしまうそうだ。本当に本当に申し訳ない…。全て私のせいだ。そなたには助けてもらってばかりだというのに、私はそなたの身体を傷つけただけで何もしてやれない…」
皇子はとても辛そうに眼を潤ませていた。
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