愛しいひと

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「皇子様…」 私は皇子の名前を呼びながらゆっくりと身体を離した。 「んっ? どうした実桜?」 「私、ボクシム先生のお屋敷に戻ろうと思います」 私は真剣な表情で皇子を見つめ、意を決して告げた。 「なぜだ? 医官長は外出は控え、無理をすることなく安静に過ごせと申しておる。身体が完全に治るまでもうしばらくここにいたらいい」 皇子は悲しそうな目をして私の顔を見た。 「いえ。ボクシム先生のお屋敷に戻ります」 「ああ、ボクシム先生とミラン夫人のことを心配しているのか? それなら心配しなくてよいぞ。お2人には実桜の身体が完全に治るまでここで療養することは伝えてあるからな」 「…………」 「そうではないのか? も、もしかして、ボクシム先生の屋敷だとミンジュンに会えるからか?」 「違います」 「ではなぜなのだ? ここで過ごすのが、私と一緒にいるのが嫌なのか?」 私は皇子の顔を見ながら静かに首を横に振った。 「これ以上ここにいたら、皇子様のご迷惑になりますから」 「迷惑になどならない。そんなことは気にすることはない。身体が完全に治っていないのに実桜を帰してしまう方が私は心配だ」 皇子は私に言い聞かせるように柔らかに言う。 「…………」 「実桜、もう少しここで、身体が完全に治るまでここで過ごしてくれないか? 私は身体が傷ついた状態で実桜を帰してしまうのが心配なのだ。お願いだ。私が安心できるまで、もう少しここで過ごしてくれないか?」 皇子の言葉に、皇子のそばにいたいと思う私の心が顔を出し始める。 「でも…」 「でもなんだ?」 「ソユンさんが気にされます。皇子様との婚姻が遅れてしまいますから」 私はそう言って視線を下に落とした。 「ソユンどの?」 皇子はそう言って少し沈黙したあと、 「実桜? 顔を上げて私の方を向いてくれ」 と、自分の顔を少し傾けながら私の顔を覗きこんだ。
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