愛しいひと

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「実桜、何か勘違いをしているようだが、私はソユンどのと婚姻などしないぞ」 私はその言葉をすぐに理解をすることができず、皇子に視線を向けた。 「確かに私とソユンどのの婚姻の話が持ち上がっていたようだが、それはサラの母親のナヨン王妃が勝手に水面下で進めていたことのようだ。私には何も知らされていないし、関係のないことだ」 「…………」 「その話が私の耳に入ってきた時点ですぐに断りを入れておる。なのでこの婚姻の話は既に消滅している。それにこれからまた何か言ってきたとしても、私はソユンどのと婚姻するつもりはない」 私が驚いた表情で皇子の顔を見つめる中、皇子は優しい笑みを浮かべて私を見つめ返す。 そして。 「だから実桜、何も心配することはない。しばらくここにいろ。私のそばにいてくれ」 皇子はそう言って何かを思い出したように衣装の右の袖の中に反対の手を入れると、1本の簪を取り出した。 「あっ、この簪…」 皇子が取り出した簪を見て、私は思わず声を漏らす。 私が以前ごろつきたちに襲われたときに市場で見ていたあの簪だ。 淡い黄緑色の桜の花に、さくらんぼのような小さな桜桃色の玉が二つ繋がれ、ゆらゆらと揺れている。 「実桜、この簪を気に入っていたであろう」 「そう…ですけど…」 「誕生日に実桜の大切なお守りをもらったから、そのお返しだ」 皇子はそう言って私の手を取り、その簪を私の手のひらにそっと置いた。 私はびっくりして目を見開きながら皇子の顔を見る。 皇子はにっこりと微笑みながら私を見つめている。 皇子からの突然のプレゼントにうれしくて喜びそうになる私と、受け取っていいのだろうか? と思う私が交差する。 「何をそんなに驚いておるのだ?」 皇子の問いに何も言葉が出てこない。 目を見開いたまま固まってしまった私に皇子は 「私が挿してやろう」 と言って片手で抱き寄せるように私を引き寄せた。 そして、私の手の中にあった簪を取り、リボンで束ねている髪の毛の中心にスッと挿した。
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