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そんなボクシムにファヨン王妃は、
「それともうひとつ、私がこの世界から消えてしまったあと、これをヨンウォンにお渡しいただけますでしょうか?」
と、一通の手紙を手渡した。
「私はヨンウォンに何もしてあげることができません。唯一できることと言えば、この手紙を残すことぐらいです。もしヨンウォンが何かに迷ったとき、人生の岐路に立たされたとき、この先そのようなことがありましたら、この手紙をヨンウォンに渡していただきたいのです。渡す時期はボクシム先生にお任せ致します」
「王妃様、私にはこのような大任は…」
「いいえ。ボクシム先生、ボクシム先生ですからお願いするのです」
ファヨン王妃はそう言って静かに頭を下げた。
ボクシムはあの時のファヨン王妃の言葉を思い出しながら机の引き出しを開け、引き出しの奥に隠しておいた手紙を取り出した。
(あの時ファヨン王妃様がおっしゃっていた女人とは実桜のことだったのだろうか…)
(何か証があると王妃様はおっしゃっておられたが、何が証なのだろうか…)
(ヨンウォン皇子様と実桜は何の繋がりがあるというのだ。実桜はこのシンファの国とは違う日本という国から来たと言っていた。時空を超える? 異国から来たというのが証なのか…?)
(それに…、この手紙はどうしたらよいのだ…)
翌日、ボクシムはひとまず実桜を屋敷へ連れて帰ろうと考え、ヨンウォン皇子と話をするため王宮へと向かった。
王宮の前に到着すると、門の前に立っている警備兵に通行証を見せ、王宮の中へと入っていった。
そしてそのまま、ヨンウォン皇子が居住する建物へと足を運んだ。
部屋の前に仕える皇子付きの内官に皇子に拝謁したい旨を告げると、少ししてヨンウォン皇子が部屋の中から出てきた。
「これはボクシム先生、どうされたのですか?」
突然訪ねてきたボクシムの顔を見て、ヨンウォン皇子はとても驚いた表情を見せた。
「皇子様、お久しぶりでございます。突然申し訳ございません。今日は皇子様と少しお話をさせていただきたいと思い参内致しました。よろしいでしょうか?」
ボクシムは温和な表情を向け、穏やかな口調で丁寧に頭を下げた。
「分かりました。では応接の間の方へお入りください」
ヨンウォン皇子は戸惑いながらもボクシムを応接の間へと案内し、侍女にお茶の用意をするように告げた。
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