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実桜が支度をする間、ヨンウォンは哀しそうな目をしながら実桜を見つめていた。
実桜と一緒に過ごす時間がいつまでも続くとは思っていなかった。
だが、それがこんなにも突然に訪れるとは。
実桜が刀で切られ、目を覚ますまでは心配で心配で仕方なかったものの、実桜が目を覚ましてから一緒に過ごしたこのひと月は、ヨンウォンにとってとても楽しくて幸せな日々だった。
朝起きて実桜に「おはよう」と表情を緩め、「行ってくる」と言って執務室に出かけ、業務が終わると部屋に戻って一緒に食事をし、食事の後は一緒に王宮の中を散歩したり、話をしたりして過ごし、そしてまた次の朝を迎える。
実桜はその都度「おはようございます」「行ってらっしゃいませ」「おかえりなさい」「このごはんとってもおいしいですねー」と愛くるしい笑顔を自分に向けてくれていた。
こんなに満たされた日々は生まれて初めてだった。
一方で、官僚たちから自分に対する意見が多くあがっていたことは十分に分かっていた。
分かっていたのだが。
この実桜との毎日を失ってしまうと思うと、実桜を屋敷に帰す、実桜を手放すということがどうしてもできなかった。
しかし今日ボクシムの話を聞き、どれだけ考えても実桜を屋敷に戻すという選択肢しかなかった。
父に迷惑をかけることはできない。
自分のせいで王の立場が危うくなるなんて決してあってはならないことだ。
それに、実桜をまた傷つけてしまうことは絶対に避けなければならない。
ヨンウォンは自分ではどうすることもできない現実に、なんとか気持ちを抑え込み、自分を制することしかできなかった。
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