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「はい。私、今まで桜って薄紅色のものしか見たことなかったのですけど、黄緑色の桜だったので珍しくて」
「黄緑色の桜とは黄桜のことか?」
「黄桜? ボクシム先生は黄桜をご存知なのですか? 皇子様もそのようなことを言われてましたが、皇子様は見たことがないそうです」
「私も黄桜という桜があると聞いたことがあるだけで現物は見たことないのだ。それは黄桜のことなのか?」
「私にはよくわかりません。ですが私が巫女さんから聞いたのは御衣黄という名前でした」
「御衣黄…」
「あっ、そうだ。ボクシム先生。この桜です」
私はそう言って自分の頭に挿している簪を指さし、ボクシム先生に向けて見せた。
「その簪はどうしたのじゃ?」
「あっ、これはヨンウォン皇子様からいただきました。私が持っていた御衣黄の桜のお守りをお誕生日に差し上げたら、お返しにくださったんです」
「なるほど」
ボクシム先生は再び考えこむように腕を組み、片手を顎にあて黙り込んだ。
(ボクシム先生、さっきからどうしたんだろう?)
(気にしなくていいいって言ってくれたけど。やっぱり気になるよね)
私はボクシム先生の様子を窺いながら名前を呼んだ。
「ボクシム先生?」
「…………」
「ボクシム先生?」
「あ、ああ、申し訳ない」
ボクシム先生はふっと我に返ったようにそう返事をすると、私に視線を向けた。
そして私が質問する前に口を開いた。
「実桜、それとなのだが」
「はい。なんでしょうか? 」
「実桜は、日本に戻りたいと思っているのかな?」
「えっ?」
思ってもみなかった質問に、私はびっくりして目を見開いたままボクシム先生の顔を見つめた。
「このまま私たちと一緒にここにいてもよいと思っているのかな? それとも日本に戻れるなら戻りたいと思っているのかな?」
「…………」
「正直に言ってくれてよいぞ」
「わ、わたし…」
何て答えてよいのか分からず言葉が出てこない。
そんな黙り込んでしまった私にボクシム先生は、
「急にこんなことを尋ねて悪かったな、実桜。わかった、もうよい。何も答えなくてもよいぞ」
と言って穏やかな顔をして頷いた。
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