繋がる証

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ボクシム先生の屋敷に戻ってきてから、またひと月が経とうとしていた。 季節はすっかり冬へと移り変わり、私はこのシンファの国で新しい年を迎えていた。 この国でも日本のお正月と同じように新年を祝い、お餅の入ったスープや、野菜の煮物や酢の物、豆や栗を甘く煮たものなど、日持ちのする料理が多く作られ、ボクシム先生とミランさんは新年の挨拶に来られる人たちに振舞っていた。 あれからヨンウォン皇子はボクシム先生の屋敷を訪ねてくることもなく、私は皇子に逢えないことにかなりショックを受けながら毎日を過ごしていた。 新年を迎え、ヨンウォン皇子がボクシム先生に挨拶に来てくれるかなと少し期待していたけれど、年が明けて一週間経ったにも関わらず、そんな気配は全くなかった。 (皇子様は私のこと好きだと言ってくれたけど、あれは嘘だったのかな…) そんな思いが頭の中をよぎる。 『実桜。そなたのことが好きだ』 『実桜、愛している』 そう言って私の身体をギュッと抱きしめてくれたこと。 優しくキスしてくれたこと。 こんなに音沙汰がないと、あのときの出来事は全て私の夢の中の出来事だったのかと思ってしまう。 (ほんとに夢だったのかも…) 私は右手で自分の唇を押さえながら大きなため息を漏らした。 ヨンウォン皇子の顔を見ることは全くなかったけれど、その代わりミンジュンさんが毎日のようにボクシム先生の手伝いに来ていた。 毎日屋敷に来て優しく話しかけてくれるミンジュンさんに、恋愛に疎いこの私でも、ミンジュンさんが私に好意を持ってくれていることがひしひしと伝わってきた。 ミンジュンさんの気持ちに応えることができないのに、そんな風に優しく話しかけられるたびに心が痛んだ。 何もしない時間ができるとすぐにヨンウォン皇子のことを考えてしまうので、私はボクシム先生やミランさんのお手伝いをたくさんして、とにかく空いた時間を作らないようにしていた。 だけど、どれだけ身体を動かして疲れさせても、夜布団の中に入ると眠くなるどころか頭の中は冴え渡るばかりで、毎晩ヨンウォン皇子のことばかり考えていた。 そんな私とは対照的に、ボクシム先生は急にたくさんの書物を集めだし、書物が届くと一日中書斎にこもり、その書物を読んでいた。 何を調べているのかはわからないけれど、どうやらその書物は植物に関する書物のようだった。
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