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読み終わった途端、ヨンウォンの目からポタポタと大粒の涙が溢れた。
涙で母の書いた美しい文字がどんどん歪んでいく。
自分が母にこんなに愛されていたとは全く知らなかった。
母が自分を産んで体調を崩し身体が弱っていたのは分かっていたが、自分と一緒に過ごしてくれなかったのは、やはり自分のことを愛してはいなかったのかもしれないと心のどこかで思っていた。
もしかしたら、自分を産んだせいで体調を崩してしまったと恨んでいたのかもしれないとも考えていた。
涙がとめどなく溢れ、頬をつたう。
「母上…、母上…」
呼んだところで返事がないことは分かっている。
だが、こんなにも自分を愛してくれた母にたまらなく逢いたかった。
「母上、どうか返事をしてください。私です。ヨンウォンです。母上…」
ヨンウォンは嗚咽をもらしながら何度も母の名前を呼び続けた。
*****
どれだけ泣いていたのだろう。
あれから食事も取ることもせず、眠ることもできなかった。
少し落ち着きを取り戻したヨンウォンは、両手で頬の涙を拭った。
濃紺の衣装が涙でぐっしょりと濡れている。
ヨンウォンはこんなにも涙を流したのは生まれて初めてだった。
「私にもこれほど涙が隠れていたとはな」
新たな自分を発見したかのように口元を緩め、笑みを浮かべた。
それはとても穏やかな微笑みだった。
母に愛されていたという事実から、心の奥底に深く刺さっていた罪悪感という棘が取れ、そこに母の溢れる愛情が堰を切ったように流れ込んでいく。
ふいに実桜の顔が頭をよぎった。
『皇子様のお母様、皇子様を産んで本当に幸せだったと思います』
『皇子様と一緒にいる時間は少なかったかもしれないけど、それでも皇子様が生まれてきてくれてとってもうれしかったはずです』
実桜があのとき言ってくれた言葉は推測ではなく真実だった。
母は本当に幸せだったのだ。
そして、自分を産んだことを心から喜んでいてくれたのだ。
そのことが何よりもうれしかった。
「実桜、そなたの言っていた通りだったな…」
ヨンウォンは独り言のように呟いた。
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