母からの手紙

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ボクシム先生が屋敷の中に入ったあとヨンウォン皇子が再び口を開いた。 「実桜、ではこれから馬に乗るぞ」 「う、馬ですか? 馬は嫌です」 私は慌てて首を左右に振る。 「大丈夫だ。今日はゆっくりと走らせるゆえ、そう怖がるでない」 ヨンウォン皇子はふふっと笑いながら颯爽と馬に乗り、嫌がる私に手を伸ばして私を抱きかかえると、そのままヒョイと自分が乗っている前に私を乗せた。 「やだー。降ろしてくださいー」 「私がしっかりと守っているから大丈夫だ」 皇子は耳元でそう囁くと、右手で手綱を持ち、左手で私をしっかりと抱きしめ、馬を走らせ始めた。 ヨンウォン皇子は私に言った通り、前回のように軽快に馬を走らせるのではなく、ゆっくりと馬を走らせ、どこかに向かっているようだった。 「どうだ、実桜? 今日は怖くないであろう」 右の耳元から皇子の艶やかな声が聞こえる。 その皇子の甘くて艶やかな声と降りかかる吐息に、電流が流れたように私の身体がビクンと反応した。 私は言葉を出すことができず、抱きしめられた皇子の左手をぎゅっと掴み、頷くことしかできなかった。 ヨンウォン皇子に連れられてきた場所は、見晴らしのいい高台だった。 そこはヨンジュの都が一望でき、少し先には柔らかい緑色に芽吹いた山々が見え、まるで風景画のように美しい場所だった。 近くには桜の木々が立ち並び、枝には淡いピンク色のつぼみが膨らみ始めている。 「皇子様、ヨンジュの都が全部見えますよー」 「ああ、そうだな」 「もう山の色も春になってるー」 「ああ、若葉の色だな」 「それにもうすぐ桜も咲きそうですよー」 私はあちこちに視線を動かしながら、次々とヨンウォン皇子に話しかけた。 皇子は目を細めながら、私が言うことに対してひとつひとつきちんと答えてくれる。 「そうだな。あと幾日かしたら咲きそうだな」 「今日、咲いていればよかったのになー。桜が満開だったらもっときれいだったのに…」 私はそう呟きながら、このシンファの国に来てそろそろ1年が経つのだということをひしひしと感じていた。 (もうこの国に来て1年が経つんだ…) 淡いピンク色に色づいた桜のつぼみを見ながら考えていると、 「実桜、桜の花が咲いたらまた一緒に来るか?」 ヨンウォン皇子が私に窺うように視線を向けた。
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