母からの手紙

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「実桜、逢いたかった…」 耳元から囁くように聞こえてきた皇子の甘くて低い声。 ドッ…キーン…。 私の心臓がとても大きな音を立てて反応した。 皇子に抱きしめられていることだけでいっぱいいっぱいなのに、その言葉で一気に頭の中が真っ白になる。 直立不動のまま、挙動不審のように黒目だけをきょろきょろと動かし、うまく息ができない。 皇子の言葉に心臓の音だけがバクバクバクバクとリズミカルに反応している。 全く言葉が出ない私に、耳元からまた皇子の声が聞こえた。 「実桜をボクシム先生の屋敷に戻してから、毎日実桜のことばかり考えていた…。何度も諦めようと思い、実桜に逢うことを自制した…。でも、どうしても諦めることができなかった…。実桜に逢いたくて逢いたくてたまらなかった…」 次々と降り注がれる言葉に、胸の奥が燃え上がるように熱くなり、皇子に抱きしめられた身体が熱を帯びてくる。 頬までが真っ赤に染まり、熱を発していた。 (っ……) 突然、その真っ赤に染まった私の右の頬に、皇子の左の頬が重なった。 「柔らかい頬だな」 皇子の甘い掠れた声が、温かい吐息が、柔らかい唇が、私の頬に優しく触れる。 身体中に電気が走ったようにビクンビクンと身体が震えた。 「あ……っ…」 私は思わず声を漏らした。 初めての感覚に一気に腰の力が抜け、その場に崩れ落ちそうになる。 そんな私に気づいたのか、皇子は腕に力を入れてさらに強く私をギュッと抱きしめた。 そしてー。 「実桜、愛している…」 その瞬間、私の目から自然と涙が零れた。 しばらく後ろから私を抱きしめていた皇子は、ゆっくりとその手をほどくと、私をくるりと回転させて自分の方へと向けた。 艶っぽい目で私を見つめながら口元を緩めて微笑む。 そのまま片手で優しく私を引き寄せると、反対の手で私の目から流れた涙を拭ってくれた。 「実桜…」 私を呼ぶ声が少し震えている。 先ほどの艶っぽい視線ではなく、今度は真剣な眼差して私を見つめている。 「実桜、そなたに話があるのだ」 いつになく皇子の真剣な表情に、私も緊張しながら皇子に視線を向けた。
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