母からの手紙

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「では実桜、私の言ったことを考えてくれないか?私は実桜と共に生きていきたい。それが素直な気持ちだ」 「…………」 「そうだ。幾日かしたらここの桜が咲くであろう。その時に返事を聞かせてくれるか? 先ほど桜が咲いたら一緒に見に来ようと約束したしな。よいか?」 美しい切れ長の麗しい瞳に見つめられ、私は小さく頷いた。 「では5日後にまたここに来よう」 「は、はい…」 「では屋敷に戻るとするか」 皇子はニッコリと微笑んだあと、馬が繋いである方へ歩き始めた。 私も皇子の後ろをついて足を踏み出そうとしたとき、急に皇子がクルリと私の方へと振り返った。 「実桜、屋敷に戻る前に少し待ってくれるか。母上に挨拶して行くゆえ…」 ヨンウォン皇子が普通のことのように凛々しい顔をしてサラリと告げた。 「あい…さつ…?」 「ああ。実はここには母上の墓があってな」 皇子は軽く頷きながら、その場所を指し示すように斜め前へと視線を向けた。 皇子が視線を向けた先には、小さな緑色の山のように土が丸く盛り上がっていて、周りには色とりどりの可愛い花がたくさん植えられていた。 皇子は丸く盛り上がった小さな山の前に移動すると、その場に膝をつけて座り、手をあわせ目を閉じた。 (この場所って皇子様のお母様のお墓だったんだ…) 皇子はしばらくの間静かに手を合わせたあと、閉じていた目を開き、ファヨン王妃が眠っているお墓に向けてゆっくりと頭を下げた。 そして、立ち上がり、 「実桜、待たせて悪かったな」 と、目を細めて微笑んだ。 顔は微笑んでいるものの、心なしか皇子の寂しそうで哀しそうな表情になぜか私も切なくなる。 私は皇子の顔を窺いながらためらいがちに視線を向けた。 「お、皇子様…、私も、皇子様のお母様にご挨拶をさせていただいてもいいですか?」 皇子は少し驚いたように目を見開いたあと、何も言わずほのかに笑みを浮かべて小さく頷いた。 「あ、ありがとうございます」 私は皇子にペコリと頭を下げてファヨン王妃の墓前に膝をつけて座った。 そして胸の前で手をあわせると、静かに目を閉じた。
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