母からの手紙

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「王妃様、初めまして。実桜と申します。ヨンウォン皇子様にはたくさん助けていただいて、とてもお世話になっています。 皇子様は本当に心の温かい方です。毎日空の上から見守ってらっしゃると思いますのでご存知だとは思いますが、皇子様はきちんと学問や武芸に勤しみ、心の温かい柔しさと剛さを持って、まっすぐに凛として生きていらっしゃいます。 王妃様、どうかご安心ください」 ヨンウォン皇子への感謝の気持ちを伝える挨拶をしてゆっくりと目を開くと、ふわっと柔らかな風が通り抜けた。 その柔らかな風に、お墓の周りに植えられていた可愛い花々がそよそよと揺れる。 まるで王妃が挨拶に対する返事をしてくれたみたいだった。 (王妃様、安心してくれたのかな) なんとなくそう感じながら、私は心を込めて丁寧に頭を下げたあと、立ち上がって皇子の方を振り返った。 すると皇子がなんとも言えない表情で私を見つめていた。 「お、皇子様…」 皇子の名前を呼ぶものの、皇子は無言のまま私を見つめている。 (私、なんか悪いこと言ったかな。王妃様に皇子様にお世話になっているお礼を言っただけだったんだけど…) 皇子のその表情に不安になった私は、 「お、皇子様、挨拶させていただいてありがとうございます。ではお屋敷に戻りましょうか」 と早口でそう告げて、急いで馬の元へと向かった。 ヨンウォン皇子はボクシム先生の屋敷に戻るときも、ここに来た時と同じように馬をゆっくりと走らせて、決して早く走らせることはしなかった。 馬から私が落ちないように左手でしっかりと抱きしめ、私を怖がらせないように気遣ってくれた。 ただ、帰り道はひと言も私に声をかけることはなかった。 私は屋敷に戻るまでの間、王妃様に挨拶したことで何か皇子の気に障るようなことを言ってしまったのかと不安な気持ちでいっぱいだった。 屋敷に到着すると、ヨンウォン皇子は屋敷に入ることもボクシム先生に挨拶することもなく「では5日後にまた尋ねる」と言ってチラッと私の顔を見たあと、そのまま王宮へと帰っていった。 皇子が王宮へ戻る後ろ姿を見ながら、大きなため息が口から零れる。 私は屋敷の中に入るとそのまま自分の部屋へと行き、部屋に入った途端ヘタリと座りこんだ。
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