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息を漏らしながら、久しぶりに母の墓前に座り、母と話したことを思い出す。
今日、実桜をあの場所に連れて行ったのは、母に実桜を逢わせたかったからだった。
だから、それを母に伝えたかった。
『母上、今、一緒にいる女人が、私が共に生きていきたいと願っている女人です。
母上に逢わせたくてここに連れて参りました。実桜と共に過ごすことで、私は初めて愛するという気持ちを知ることができました。実桜となら、共に喜び、笑い、安らぎを感じながら生きていくことができそうです。また、悲しみや辛さも、共に乗り越えていけると思っています。母上が助言してくださったことで、私は今日、実桜に私の気持ちを伝えました。どうか母上、私の願いが実桜に届くようお見守りください』
母には実桜がどう映ったのだろう。
聞いてみたいが、残念ながらそれを確認することはできない。
だが、ヨンウォンにはなぜか母は喜んでいるような気がしていた。
母への挨拶が終わったあと、実桜も母に挨拶がしたいと言ってきた。
普通に挨拶をするだけかと思っていたら、母が安心するように、自分のことを母に報告してくれた。
そんな母への心遣いがとても嬉しかった。
そして。
どうしても実桜と共に生きていきたい。
もう実桜を手放すことなんて考えられない。
実桜を自分のものにしたい。
と、切に願ってしまった。
あのとき、ひと言でも口を開いてしまうと、もう自分を抑えることができない気がした。
無言になってしまったのはそのためだ。
必死で自分を抑えながら、なんとか実桜を屋敷まで送り届け、やっとの思いで王宮まで戻ってきた。
「実桜、私はもう、そなたと共に生きることしか考えていない…」
ヨンウォンは自分の脳裏に映る実桜に話しかけるように呟いた。
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